Rowingは食卓から

前回の「サプリメント・・・」の表題は大上段に構えながらも実のところは常識的な内容だという感想がありました。常識に挑戦するというこのシリーズの看板は常識人である私にとって重荷なのかもしれません?

第4話のテーマを「ハードトレーニングでチャンピオンは育たない」にしてかなり書き進んでいたのですが、やはり迫力を欠く内容となってしまいそうになりました。「このままでは読者の期待に応えられない」との判断をして中断、予定変更としました。

現在はドイツの田舎にいます。あと2週間後に控えた世界選手権のための合宿中です。その合宿生活のなか、毎日の食事を選手達と食べながら、感じ、思い浮かんだことをここらへんで一息入れるつもりで気楽に書くことにしました。

しっかり食べてしっかり漕ごう

スポーツ選手にとって食事は最も大切なことであるのはだれもが知っている。しかし、現実の食生活はスポーツ選手に限らずとも一般人も含めてかなり乱れている場合が多い。1回ごとの食事に対して神経質になることはない。しかし、無知なのではないのに無神経過ぎる。瀬田RCの選手達の食事も同じ傾向ではないかと心配している。

良い練習をするためにも、強くなるためにもしっかり食べることだ。もし、食事がそこそこでも練習が普通にこなせているなら、大したトレーニングをしていない証拠と思って間違いないので反省するべきだ。

ナショナルチームの合宿では練習が仕事みたいなものだから当然、沢山のトレーニングを行う。選手は全員軽量級ながら普通の人の何倍もの量を食べる結果となる。マネージャーの仕事はMENUの内容が片寄らないように気配りをして宿にMENUの注文を付ける事である。サプリメントは一切ないし、減量のために食事量を制限することもない。

先回も触れたが、軽量級の減量時はトレーニングを増やしてエネルギーの収支をマイナスにしておこなうべきである。決して節食過剰に陥り、栄養素の欠落をまねくことになってはいけない。

実話ということでこんな話を聞いた。ある食品会社が朝が忙しいOL、サラリーマン向けに通勤途上でも食べられるようにした食料パックを売り出したことがある。

キャッチフレーズは「これ一発で朝食の栄養補給は万全」というような内容だったと記憶している。その商品の社内企画段階で「そんなものを売るのは食品会社の良心に反する、はずかしいことだ」との反対意見もあった。でも、企業の商売の論理が優先され発売に至ったそうだ。なにも食べないよりはマシ程度のそれを信じていつも朝食代わりに食べていた人は騙された気分だろう。それよりそんなに便利で万能のものはあり得ないのだから食品会社より自分の考えの浅はかさを責めるべきだろう。しっかり食べてしっかり漕ぐ(動く)、これが基本である。 昔、 私は「食欲は漕力なり」なんて言いながらドンブリ飯ばかり食っていたがいま思えば馬鹿みたいで懐かしい。

食事の姿勢とマナー

食事時に腰が落ちていたり、半身に構えて座ったりして姿勢の悪い人がかなりいる。私も猫背でしかも食べるのが猛烈に早い。従って私にこのことを論ずる資格がないのは承知で話をすすめる。食事もRowingと同じく座る姿勢である。食事時と漕ぐときとポジションのとり方がだれの場合でも共通していることを我々コーチングスタッフは発見した。コア(体幹)をしっかりさせてキチッと正面に向かって食卓に座れない選手は行儀が悪いだけでなく、Rowingにおいても体の中心がグニャグニャとしていてダメなことが多い。強いクルーは例外なく体の中心を安定させて力を伝えている。

このためには小手先の艇速を狙った筋トレよりも体幹部をしっかりさせるトレーニングを先んずるべきだろう。

それから食事時に大声をだしたり騒ぎながら食べたりして食事に集中できない場面もある。ちょっとすましたレストランで会食をしてもいつもコンパ風に出来上がってしまう。日本の家庭の食堂にはTVがあってつけ放しのことが多いのも同じである。今行っている食事又はRowingに集中しないことには良い感覚(味覚)を養うことはできないのではないか? 料理人がどう食わせてやろうとしているのかを感じ取るセンスも時には大切だろう。これはコーチのトレーニング・メニューにたいする選手の姿勢にも通じる。

あとひとつ、知っていてもなかなかできないこと。スープやスパゲティがでてきた時のあのズルズルノイズ発生のことである。これは女性より男性が、若者よりも年配者がダメである傾向が強い。我々は日頃あまり問題にしていないから直らないのだと思うが海外のレストランでは極端な程に嫌がられる(見下げられる)。今年のサッカー・ワールドカップ日本チームの合宿で日本でも知られることとなったエクス・レス・バンの町で昨年合宿していたが、その食事中にとなりのテーブルの夫婦連れからダイレクトにクレームをいただいたこともある。いずれにしてもRowingも食事も正しい姿勢で感覚を研ぎ澄ませながらしかも、リラックスして行うことでレベル向上が望める。

食べ物に慣れる

海外にでて慣れるべきことは時差だけではない。食事をはじめ生活のすべてに慣れることが戦いの出発点となる。世界中いろいろな食べ物があり、さらに無数の調理法がある。どこに行っても、何が出てきてもおいしく食べられる。いや、もっと変わったものを食ってやろうという前向きの気持ちの者が最後まで戦闘意欲を持ち続けられる。

日本食ならなんでもという程度なら地球エリアでみればそれは偏食だ。事実、ひと昔前の海外遠征には日本食をいっぱい持っていった。その後、現在のように何ヶ月も日本食なしで過ごせるようになってから競技成績はあがりだした。

昨夜、久しぶりに宿(ペンション)のレストランでコーチミーティング(酒飲み)をやった。この宿のパパは瀬田RCの北村前会長に風ぼうがそっくりさんでしかも、ソムリエだ。ハウスワインとチーズを注文したら宿のママが大きな皿にチーズを20片(種類)ほどを軽い方から重い順に並べだしてくれた。つまり、あなた達はこれを食えるかと挑発を受けた訳である。近江の鮒ずしできたえた私にとっては何の苦もなくこれらをおいしくいただけたことは言うまでもない。 その人の 食事スタイルの柔軟度はRowingに通じる。そして人間的な心のタフさにもつながると信じている。

少しこじつけがましくまた、親父の小言風になってしまいましたが、「Rowingは食卓から」はなかなか使えると思いませんか。

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