大きな泡で漕ぐな

このシリーズではかなり意識して過激な表現でやってきました。それによって新たな議論が巻き起ったり、気付きがはじまれば別の新しい道がみえてくると信じてのことです。世の中すべてについて今ほど従来の常識が信頼を失いつつある時はないと思います。

ボートの世界も昔のままではいよいよ埋没してしまいます。瀬田RCだって同じです。それに気に入らない事は摩擦を避けて議論の輪に入って来ない若者が増えたことです。

高校、大学のボート部は新入部員の勧誘の季節ですが新人の確保は難しいと聞きます。企業内スポーツも休廃部がニュースになっています。そして日本のボート選手の登録は毎年1000人(約1割)ずつここ数年着実に減少しているのです。原因は少子化とか価値観の変動だけでしょうか?我々のなかに時代にシンクロして、ボートを革新的に牽引して行こうとするエネルギーが足りないことに尽きると私は考えています。これは安易に時代迎合をやれと言っているのではありません。この辺に瀬田RCが将来どんな存在でいるべきかというテーマについてヒントがあるのではないでしょうか。

おっとと、、、話が大きくなりはずれ過ぎました。このシリーズでは私の期待したほどは反論や議論は進みませんでした。脇を大甘にして待っていたつもりです。理由としてはそれなりに論理的に書いてあるので、反論も少しは準備が要るということらしいです。理屈無しで「お前の言うことはケシカラン」という爺もいましたが・・・・。私にとっても考えをまとめる機会が得られていい勉強になっています。

今回のテーマは実にシンプルで多くの紙面を要しない。まず、議論のまえに前提の解説からはいりたい。漕手はオールのハンドルを引いてエネルギーを発揮している。これが唯一艇を進めるためのエネルギー原資となる。そしてハンドルを引いて発揮したエネルギーはどこでどのように消費されているのだろうか。ここでのエネルギー消費とは艇が受ける抵抗のことと言い代えることができる。漕手の発揮エネルギーの大きさと艇が受ける抵抗とのバランスで艇速は決定される。艇が重ければ抵抗が増えて艇は走らないし、強力な漕手がいれば艇は速くなるという当たり前の理屈である。速く艇が走るためにはこの二つの方向からの努力が必要となる。

この中で漕艇技術に関連する項目としてはC の身体的効率の向上がある。そしてeの動作をスムースにして無用の加減速を艇に起こさないで摩擦抵抗を減らす物理学的テクニックの向上である。これらの二つの論理根拠は既に述べてきたし、ほとんどのコーチは充分に大切さを認識している項目である。

あとひとつ、漕艇技術が関与すると考えられるのがオールから発生するロスエネルギーである。このことに意外に無頓着の漕手、コーチが居るのではないかと感じた。gの項をさらに分解すれば、こんな事になろう。

ここにきて、やっと本題に入れる。主にこのg−3の項について議論をすすめる。

浅く漕げば大きくて白い泡がブレードの廻りに発生する。キャッチで傾めに水中へ漕ぎ入ればブレードの背面に空気が入って音をたてながらやはり白い泡が発生する。ファイナルで傾め上にけり上げながら抜いても同じことが起る。これらはすべて水に上下方向の回転をする運動エネルギーを与える。そして最終的には水の分子間の摩擦となり熱に変換されコースの水に吸収される。

ここで消費されたエネルギーは“艇速の決定に関与しない”成分となる。漕手の発揮した限られた大切なエネルギーはこの分だけ無駄に使われたことになる。すべてはd.e.fの項目のなかで消費されなければならない。つまり、ストローク中は浅く漕いだりしてブレードをスリップさせては損をするということである。Bigブレードが現れた結果、水中をスリップしないことによる効率向上効果はかなりある。言い直せば、Bigブレードは水中スリップがスタンダード型ブレードに比べて大幅に少ない。イメージ的にはスリップが起らないと考えた方がよい。面積の小さいスタンダード型ブレードなら強く漕げば漕ぐほどスリップが起って大きな泡が起り、昔は強く漕いだ証明となり得たのだ。が今は違う。大きな泡は非効率なブレードワークの証拠であり強く漕いだ証になり得ない。全く自慢にならなくなった。大きな泡をたてて漕ぐのはヤメロ!! と叫びたい。

現在ではローイングに於いてブレードは完全な梃子の支点であり動かなくて良い。「水中にブレードという抗を打て」とか「プリンにスプーンを差し込む感じ」等の表現でブレードと水の関係を言うコーチも多い。さらに、キャッチからミドル近くまではブレードは艇の推進方向および外側(推進方向70〜0度)に進むので水流が先端からネックの方向に流入する。この時ブレードの廻りに泡が無くて層流が形成されれば丁度、飛行機の翼のように揚力が発生する(Hydrodynamic Lift)これは、キャッチでの水中に対するフイット感と固定感を高めて良好なストロークのはじまりを作る。さらにけり戻し現象も軽減できる。

私の能力では泡を作らないで漕ぐことのGainがどれくらいかを定量的に計算できない。しかし、正しい漕ぎ方であることは確信できる。そうでない認識のコーチや漕手がいるならぜひこの際改めていただきたい。

この文書の情報