テクニカルドリルで上達はできない

目標がはっきりしない行動は何時の場合でも良い結果をもたらすことはありません。ライバルよりも楽しいボートを漕ぎたい、上手になりたい、負けたくないという願いがあってこそ、目標を明確にし、計画性を育て創造とエナジーが生まれるのです。

従って、自らの“志”もないまま、強制労働的にどこかのやり方をマネてるだけでは永遠に成功はないし、ライバルを越えることもないでしょう。我々にとって“志”とは大会に優勝することだけではありません。もっと広い範囲の意味のものであって良い。個々にあったものが必要でしょう。また、クラブ全体としてもみんなが行動動機を感じて求心力を発揮する確かな目標をリーダー達は除々に明確に設定していくべきと考えています。

今回はあちこちではっきりした意図もなく漫然と繰り返されている技術向上のためのテクニカルドリルについて警鐘を鳴らそうと思いました。

私は朝日レガッタにシングルスカルでエントリーしました。家業の田植えをさぼってレースに出ていることが昨年のように新聞で近所と親戚にばれないようにする。例え、女性記者が来てもデレデレ!?と取材に応じないように特別に注意すること。さらに若者をなぎ倒して予選をパスすることが当面の目標なのです。

一般にスポーツにおける技術向上の結果は身体を巧みに動かせて身体力学的な効率をあげたり、そのスポーツに合った適格な動作を実現させてくれる。そしてボートのような持久スポーツでは無駄のない筋動員技術を獲得して運動生理学的なエネルギー収支効率を改善できる。さらにオールとか艇という道具を介して運動を行うため、物理学的な合理性と効率を向上させる視点からもテクニックを考える必要があろう。

学校のボート部では3年間とか4年間で初心者から1人前の選手に育てる必要がある。楽しんでやれと言って放って置く訳にはいかない。だから先ず、先輩の指導のもと理屈とか感覚は抜きで漕ぐ型を教えられ、その指示の通りに漕ぐことを強要される。そしてその型を覚える効果的手段として普及したテクニカルドリルというのがある。これが日常茶飯事的に技術練習の”定番パターン”として我国には普及している。明確な意図もなく全国あちこちで定番ドリルが繰り返されているように思えてならない。その結果、型だけでさっぱり強く漕げないとか、艇バランスや水とのフィリングなどお構いなしという鈍感でセンスのない選手を大量生産しているのではないか?これに類する話しは他にもある。

練習に入る前に昔は1列に並んでイチ、ニイ、サンと号令をかけながら準備体操をやった。いい加減やろうものならしっかりやれい!と先輩から叱られたものだ。私が初めて30年近く前にカナダでの世界選手権に遠征してこの体操を練習毎に艇庫前でやっていた。翌日の新聞に「Japanese Dance??」と写真付きで紹介されて笑いものにされた経験がある。カナダの連中に何の為にやっているか訴えるほどのことが出来てなかったのだ。

近況はストレッチと称してみんな艇庫前で海馬かオットセイの昼寝みたいにゴロゴロしている風景をよく見かける。とても真剣には見えない。これは昔の準備体操の現代版と言える。テクニカルドリルもこれらの体操も何の目的意識もなくやっているだけで私に言わせればみんな同じたぐいのものだ。完全にセレモニー化していると言って過言ではない。時間の無駄以外何ものでもない。ヤメロ!!とさけびたい。

5年少し前に某国立テレビが企画している「スポーツ教室ボート編」の企画、解説担当を突然任かされた。やることに窮していくらかのテクニカルドリルを紹介することにした。しばらくして日本中どこに行っても同じドリルをやっていることに気が付いた。絶句!!恐怖すら感じた。同じ事をやるのに疑問を持たないのか?

それから私は自己嫌悪に落ち込んでしまい、その後もいまだに尾を引いている。マスコミの影響力の大きさをここでもしらしめられている。

テクニカルドリルはローイング全体動作の1部分だけを抜き出して行う分習という学習法である。その目的は身体部位と動作範囲を限定して行うことで集中して感覚をとぎすませることができる。結果、身体運動に於ける筋動員の調和とか、水へのフィーリングを効果よく学ぶ目的がある。したがって、コーチや対象となるクルーごとに技術課題や対策への着想ややり方が違うはずである。ドリルを行う前に余程これからやるテーマの説明をしておかなくては効果は期待できない。なんの事前確認もなく、みんながやっているから効果があるだろうと安易な気持ちで型にはまった一見はまともに見えるものばかりやり過ぎている。他人から見れば全く理屈に合わないへんちくりんなドリルがあっても良い。曲芸みたいのも歓迎だ。曲芸も艇を操ったり、水を知るきっかけを作ることができる。例えばこんなものはどうだろうか。

最後に技術練習にあたっていくつかの要点をあげてみる。

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