ボート漕ぎ仲間を増やすために

ボート人口増大フォーラム(2月18〜19日 東京で開催)の冊子記事から

 ロウイング(ボート漕ぎ)は川とか湖の自然のなかで行う素晴らしいスポーツです。反面、自然は優しい時ばかりではなく命をも奪う厳しさも持っています。人間が昔から生きるために向き合ってきた自然に今でも直接触れあうことができる。ロウイングはそんなスポーツとしての貴重な要素を備えていると思います。

   

そのロウイングも時代の流れのなかでオリンピックのように、競技場内で2000mの距離を争う競技スポーツとして近年は発展してきました。クラブではなく大学スポーツを中心に発展してきた我が国はその傾向が顕著です。そんな現役時代を過ごしてきた先輩達の運営する日本ボート協会が有効なボート人口増大への知恵がなくて苦悩するのも当然なのかもしれません。

 

スポーツを行う意義を生涯(楽しみ)スポーツと競技スポーツの二面からとらえることは極めて重要です。これからの社会の中でスポーツが存続できる条件と考えて良いでしょう。生涯スポーツは生活を楽しく、豊かにして健康の維持、増進に役立ちます。かたや競技スポーツは人間の限界に挑戦して競技を芸術のレベルまで高め、本人の自己表現にとどまらず、見る人に勇気と感動を与えてくれます。この二つが相まって一つのスポーツを構成しているという概念が大切です。これが今の日本のロウイング界に必要です。

私が競技スポーツ選手を引退した後、ボート好きの仲間・15人が集まって地域のボートクラブを結成したのが30年ほど前です。琵琶湖瀬田川には大学、高校、企業のクラブがたくさんあって、そのなかでは異端の存在でした。我が国の場合、支援母体を持たないこのようなクラブは人材、資金、用具条件が乏しいのが普通です。欧米のような立派な地域クラブになれないまま、結成と消滅を繰り返しています。我々の場合は現役時代に見て来た海外のクラブのイメージを具体的な目標として持てたのが良かったと思います。成功の要点としては楽しみのロウイングに留まらないでトップ競技選手を育てることも怠らなかったこと、また自立、自律の精神を貫き自前の艇はもちろん、艇庫やクラブハウスを実現させたことです。

現在は正会員数175名、艇庫2棟、ボートは約80艇を持つクラブになり、カヌーやドラゴンも入れて地域総合水上クラブを目指しています。毎年のように日本代表選手を出すまでになりましたが課題は山積です。単なる仲良しクラブから、組織運営のシステム構築の必要を感じていますが、思うように進んでいません。さらに3年前、NPO法人にもなって社会的責任を果たすことも模索中でいますが我が国にはモデルがなさ過ぎて本当に試行錯誤の連続です。

我が国のローイング・スポーツをこれからも発展させるための私の提案です。

  1. ジュニアの世代ではローイングの楽しさと基本技術を重きにおいた指導に改める。現在の勝利最優先の価値観をスポーツ行政やボート協会、そして指導者も考え直す。この世代では楽しみと競技スポーツに分化する前の準備のためのステージであるべき。勝利のための知恵とか訓練ではなく生涯どのようにスポーツと向かいあうのかを教える。
  2. 日本ボート協会は限りある資金を普及のために分配するのではなく、将来の我が国のロウイング・スポーツの理想を掲げて方向を示し、その実現のため行動力ある指導者(運営リーダとコーチ)を協会内と各地に育て、確保することに資源を集中する。
  3. 国や行政は我が国の水上スポーツ発展のために河川でのスポーツができる環境への配慮や施設を整備。
    日体協はミニ五輪を目指すかのような国体開催を改める。 ボート協会はミニ全日本選手権のような運営の地方レガッタの蔓延の見直しをする。これらはもう、時代にあっていない。生涯スポーツに視点にした大会プログラムに移行するべき。

この文書の情報

この記事は、瀬田漕艇倶楽部の会報2006年2月号に掲載されました。