大艇よりも小艇を カナダナショナルチームが、代表選抜に小艇トレーニングを用いる理由。

By Dr. Volker NOLTE

カナダ国内の精鋭中の精鋭からなるカナダナショナルチームはこの10年間、オリンピックや世界選手権で多くのメダルを手に入れた。この成功は明らかに運動能力の高い選手と大きな国家チームシステムによるものである。ペアやシングルなどでの練習効果は小艇トレーニングの重要性を強く確信させ、小艇での競い合いがこのシステムの重要なものとなるペアはスイープ選手のための、シングルは小艇練習の基本とされている。表題の答えを見つけるためにはカナダナショナルチームが中心としている小艇での練習を詳しく学ぶ必要がある。

小艇での練習はどのような結果をもたらすのか?

「小艇選抜を用いたカナダナショナルチームを見ろ」がもっとも説得力のある答えとなる。この一年間カナダナショナルチーム合宿で小艇練習を積極的に進めた結果、選抜に最も有効で公正的な方法だということが明らかになったので、選抜時にはシングルとペアを利用している。この結論が出た理由は、個々のパフォーマンスをシングルやペアではうやむやにすることが出来ず個人の能力がはっきりと結果に反映するからである。小艇レースの結果は選手を完全に位置付けし、選手全員に能力を示すチャンスを与えることが出来る。このシステムによる選抜なら小艇のレースと同時にエイト、フォア、ペアなどの選考も行うこともできる。したがって、選考を受ける種目が何にせよ、すべての選手が小艇を経験する必要がある。

また、小艇練習はあらゆる能力の訓練となる。例えば生理学的にも最も良いトレーニングであると言える。個人の強度に合わせたトレーニングを進めるが最も効率的であり、有能な漕手は自分に適した早い艇速で漕ぐことができ、発展段階の漕手は過度な負荷をかける必要のないトレーニングが可能である。エイトではすべての漕手が同じ強度で漕ぐことは不可能だ。

小艇での練習はテクニックにおいても有効な訓練となる。ボートテクニックの一つであるバランスを取る訓練に適したトレーニングであり、シングルやペア艇は漕手の動きや力の掛かり方に繊細な反応をしめすので高レベルなテクニックが要求される。些細なミスでもハッキリと漕手自身の漕ぎに現れるので、漕手の自覚を促しコーチも容易に指摘することができる。したがって、コーチによっては選手の正すべき動きを自覚させることに失敗しているが、小艇では漕手の感覚を磨き簡単な試みと失敗の繰り返しで適したテクニックを身につけさせることができる。ペアにはハッキリと二人の相性が表れ、この認識はもっと大きなクルーを編成する時に利用することができる。

さらに、小艇の練習で心理的な優位性を得ることができる。シングルの漕手は自分のパフォーマンスのみに依存していることを学び、自分の能力を自覚することができ、個人のパフォーマンスをうやむやにすることができない変わりに、体の動きを学ぶことができる。自分自身のパフォーマンスで船を進め、コックスのいない孤独な小艇で訓練することで精神を維持させる強さや闘争心を身に付けることができる。エイトで水上に出る代わりに、4艇のペアに分乗することでお互いに競い合うことも出来るなど、いろんな種類の船を組み合わせることでトレーニングにバリエーションを作ることが出来る。

最後にWATERMANSHIPについて書く。漕手は小艇を漕ぐことによって漕ぎの要素と周りの環境を敏感に感じることができる。つまり、舵を取るコックスがいないのでコース取りを注意する必要があるり、水、風、波、および温度までもを敏感に感じることができるのだ。小艇の経験は漕手が自分の動きを感じる能力を促進する。簡単な例として、エイトでローロックを取り除いたままにすることは、それほど危険ではないかもしれないが、ペアでは危険を感じるだろう。

レースに勝つため以外の小艇を薦める理由もある。小艇を漕ぐことを教えられた漕手はおそらく他の選手より長いローイング人生を楽しむことができるだろう。というのも、彼らはほとんどの種目を漕ぐことができ仲間の漕手に頼って漕ぐ必要がないからだ。特に、人生の後半で他の漕手と共に漕ぐ事がきわめて困難になったとき、スカルを漕ぐ事ができる漕手は水上に浮かぶ機会を得ることができる。また他人を頼らずに自艇を購入することさえもできるので小艇に乗る漕手は長いローイング人生を持てる可能性が大きいのだ。

小艇練習の欠点はないのですか?

確かに有ります!だからこそ私達が依然として選手やクラブチームに小艇哲学を教え込む必要があるのだ。4艇のペアを出すよりも当然コーチのポジションとも言えるコックスが乗っている1艇のエイトを出すほうが容易である。いくつかのクラブでは、安全関係、特に寒い日の安全を非常に気にしているので、安全性の高い艇が必要となる。カナダのローイングクラブではエイトが主流となっている。これは伝統的なものであって、カナダのボートハウスに今以上の小艇を置くことは難しいことであるのだ。しかし、小艇を購入しさえすればきっとトレーニングの楽しさを感じることが出来、艇の扱いと新しい角度からの安全を学べるはずだ。したがって小艇での欠点は積極的な経験となる。

社会が積極的な変化を望んでいる時期に、マーチン・ルーサー・キングは、「私は夢を持っている…」と言ったことがある。選手達の望むローイングプログラムとして、小艇練習を重要視してみてはどうか?と言っている。小艇トレーニングの利点としてすべての選手がこのトレーニングに没頭できるということは明らかだと確信している。その証拠として、特にこの方法をまったく疑っていなかったカナダチームの大成功がある。新しい時代のカナダ選手達に賛同し感謝する。

Volker Nolte (45歳)

13歳で初めてボートを漕いだ時その美しさと奥深さに感激した。 今でも仲間とシングルやエイトに乗り、 水面を走るボートの心地よい艇速、ボートの進む音、そして完全なストロークへの努力を楽しんでいる。そして、これらの快感を若い選手へと伝えることもすばらしいことだと思う。

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