欧州クラブ訪問記

今城律雄

11月初旬に会社の出張で急遽約2週間ドイツとイギリスに行きました.行くことになったときは「欧州のクラブチームを見ることができるかもしれない」とよからぬ(?)ことを思ってしまいましたが,スケジュールも現地に行くまで確定しなかったので.ボートのことを調べる余裕もなく渡欧しました.

【Ruderclub Germania Dusseldorf 1904 e.V.】

ドイツではデュッセルドルフに宿泊しました.到着した翌日の日曜の午前中がフリーだったので,インターネットでRuderclub Germania Dusseldorf 1904 e.V.を探し出し,住所をチェックしていざ出陣.ドイツは基本的に日曜日はお店も閉まっており(法律で決まっているらしい),唯一空いているのは駅の構内にある売店やファーストフード,パン屋さんくらいで街中を歩く人も少なく,結局タクシーに乗ってクラブハウスに向いました.ライン川の河川敷を越えたところにクラブがありました. インターホンを鳴らすと住み込み風の管理人がインターホン越しに「今日はやっていない.水曜日に来てくれ」とのこと.しかし水曜に訪問することはできなかったので,艇庫内の写真だけ撮影させていただきました.

HPの写真やドイツのクラブだということからエンパッハが並んでいるのだろうなと思っていましたが,艇庫の多くの艇はナックルのような形をした木製のフォア(ナックルと同程度の幅だが船底は丸く,キールがある.K造船でもカーボン製のものを販売している)であり,競技用ボートはわずかでした.またオールも艇に合わせてかマコンオールがほとんどでチョッパーは少ししかありませんでした. 艇庫は整理整頓されているとは言えませんでしたが,木製のフォアはきちんとニスが塗られ,ブレードもきれいに塗装されていたのが印象的でした.

【Reander Rowing Club】

1週間ドイツに滞在後,ロンドンに向かいました.新婚旅行以来13年ぶりでした.イギリス留学中のデューク小林さんと連絡を取りましたが,時間が合わず会うことはできませんでした.彼からはHenley on Themesにある「Rowing Museum」を薦められ,滞在中唯一の休みにそこに行くことにしました.以前会報で元会員の山崎義昭さんがそこを訪問したと記載がありましたが,Henleyに行けばロウイングクラブも近くにあるだろうと思い,下調べもせずHenley on Themesに向かいました. ロンドンから電車に乗り,1時間余りで到着.駅から少し歩くとThemes川に出ました.水上を見回すとカヤックが1艇漕いでいるのみでボートの姿はありませんでした.しかし対岸にボートが置いてあるのが見えたので,橋を渡って対岸へ向かいました.橋を渡るとすぐ左に煉瓦造りのクラブハウスとボートが見えました.そこはかの有名な「Reander Rowing Club」でした.三宅さんから以前,Reanderにはピンセントが所属し,クラブのマスコットは「ピンクのカバ」と伺っていましたが,その通りでした.厚かましくもアポなしで訪問し,日本のセタロウイングクラブに所属しており,クラブハウスを案内いただくようお願いすると,選手兼アルバイトでクラブハウスの管理をしているクラーク(写真)に中を案内していただきました. 日曜の午後で選手は練習しておらず,クラブハウスにもいないようでしたが,年配の方々がクラブハウスのレストランで飲食を楽しんでいました.クラブハウスは3階建てでエレベーターがあり,レストラン,トレーニングルーム,遠征チーム用の宿泊部屋,選手用の宿泊部屋,ミーティングルーム,コーチ部屋などを兼ね備えていました.クラブハウスに入ったところにはヘンリーレガッタ,世界選手権,オリンピックで入賞したクルーメンバーの名前の入ったプレートが整然と飾られていました.当然その中にはピンセントや案内してくれたクラークさんの名前もありました.「ピンクカバ」のアパレル商品(女性用パンツまで!)を販売していたので,お礼がてらウェアを購入してクラブハウスを後にしました.さすがに1830年代に創設され170年以上歴史のあるクラブだけあって,かなり格調高いクラブという印象を持ちました.このクラブは現在ナショナルチームのコーチが2名おり(瀬田漕艇倶楽部も同じですね),オリンピック優勝選手も輩出しており,世界レベルの選手をシニアの方々が支援している感じでした.このクラブは年配の方でレースに出てガンガン練習している人はそれほど多くないようで,週末にクラブに来て飲んだり食べたりしながら談笑している雰囲気でした.

【Henley Rowing Club】

Reanderから5分ほど下ったところにHenley rowing clubがありました.敷地でボートを触っている管理人風の夫婦にお願いし,クラブハウスを案内していただきました.このクラブは1870年代に創設されたので130年以上の歴史を誇ります.Reanderに比べると小さいですが2階建てでトレーニングルームも完備されていました.また本館と別にプレハブのウエイトトレーニング部屋もありました. 一通り案内していただくと,「シングルスカルを漕がないか?」という甘い誘いを受けて厚かましくもスカルを漕がせていだだきました.これが私のヨーロッパローイングデビューでした.漕ぎ始めてから会社から借りた携帯電話がポケットに入っているのに気付き,落としたり沈したら始末書ものだと思い,ビクビク.途中カッターを漕ぐ子供たちとすれ違いましたが,観光船や他のボートもなく,プライベートリバー気取りで往復2kmほど漕ぎました.陸上に上がり夫妻の事務所にお邪魔しました.何とこの事務所は川べりに浮かべた船でした. 1ポンドでご主人が廃船を買い,半年かけて自らの手で修理,改装したものでした.

船の中は事務所の他,リビングや寝室までありました.この夫婦は平日はロンドンで働き,週末はヘンリーに来て,有給でクラブハウスの管理をし,その事務所兼別荘でのんびりとした週末を過ごしているとのことでした.ボートを漕がせていただいた上にビールもご馳走になりました.Reanderと比べると敷居は低い感じを受けました.帰りにウエイトトレーニングしている選手に聞くと会費は200ポンド(約4万6千円)でした.

【Rowing Museum】

予定していなかったクラブ訪問をしてしまい, Rowing museumには閉館近くなって入館しました.外にはレッドグレーブとピンセントの銅像(生きているのに!)があり,中も最近アップデートされたものもあったようです.日本サッカー協会が日韓ワールドカップで余ったお金でサッカー博物館を建設しましたが,日本にもボート博物館があればいいのになと思いました.例えば琵琶湖漕艇場に博物館を作り,瀬田川,琵琶湖,さらには関西のボートの歴史館,ボートの陳列をして集客してはどうでしょうか.

一口に「欧米のローイングクラブ」といってもいろいろなタイプのローイングクラブがありました.ローイングクラブとして我々の目標ではありますが,NPO,そしてカヌー,ドラゴンボートを含めた総合型地域スポーツクラブという観点ではそのまま見本にできるクラブではありません.したがってそのような見本が無い以上,自分たちで考えていく必要があることを再認識しました. またどこのクラブの庭も西洋芝だからかもしれませんが11月でもきれいな緑色でした.出入り口のドアはどこもテンキー式でした.鍵を持ち歩くのが面倒ですし,来年は防犯も兼ねてクラブのドアもテンキーにする予定です.

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