高地トレーニングはボートに役立たず

高地トレーニングとは2000m級の高地、即ち空気中の酸素分圧の低いところで主に持久力のトレーニングと定義できる。希薄な空気中でトレーニングすることにより酸素摂取能力を向上させ、その結果として持久力能力を高めようとするものである。その持久力向上はどのような体の順応が得られた結果かを考えないことにはすべてのスポーツの持久力トレーニングに応用できない。先ず持久力を構成する要素をまとめると次のようになる。

生理学的な持久力構成
トランスポーテイション(酸素運搬) ユーティリゼイション(燃焼効率)
機能
  • O2摂取、運搬
  • CO2排出、運搬
  • 燃焼とO2の供給
  • 老廃物の処理
決定因子
  • 肺換気量、ガス交換効率、心拍出量
  • 血液(赤血球)、血管 (高地トレーニング等)
  • 毛細血管分布、ミトコンドリアの量
  • 筋の質と量(赤血球)
  • 酵素活性度、グリコーゲン含量 (長距離トレーニング等)

高地トレーニングでは主に肺のガス交換機能、赤血球(ヘモグロビン)量の増加により酸素摂取能を高めることに目的がある。しかし、酸素摂取運搬(トランスポーテーション)能力は健康であれば充分の余力を備えている。つまり、運動時は体温の上昇、血液のpHの変化、CO2等による末梢での血液からの酸素供給(酸素乖離)上昇、肺換気、心拍数の増加等々により、安静時の20倍は容易に越えることができる。

みんなは2000mレース中で呼吸困難に陥り漕げなくなった経験はないと思う。つまり、トランスポーテーションは足りているのである。

ボート選手が高地トレーニングまでを行って赤血球を増やす努力がどれほど効果的なのか考えるべきだ。このことでボートの選手にとって大切なのは健康である(貧血、心肺の病気の有無)ことをチェックすることで足りる。

反対に高地では疲労を溜めやすく、専門スタッフの監視のなかでやらないと失敗する恐れがあること。トレーニング量が稼げないためにユーティリゼーショントレーニングが不足することも痛い。とても今の我々にはそのトレーニングができるスタッフ環境はない。

さらに漕艇運動(特に技術不足の場合)では座位のため充分に大きな筋肉を動員して漕ぐことは高度の技術を要する。このため最大心拍数(HRmax)がランニング時のように生理的限界まで上昇しないことが多い。つまり、酸素運搬能力が漕能力を制限していることは考えにくい。逆に大量の筋肉が動員し易いと思われるスポーツの自転車、ランニング、水泳等全身運動 の種目においては漕艇より高地トレーニングの効果が期待できよう。ボートでは技術完成度の高い漕艇オリンピック選手がさらに能力開発を期待して、高地トレーニングをやると言うなら検討の価値はある。

結論として、低地でロングを漕ぎながらユーティリゼーション能力とテクニックをつけ、筋肉の動員量を増やすことに並の選手は専心するべきである。同じ意味で鼻腔拡張テープ(鼻に張るテープ)はやめろ!!おまえは鼻の病気か。と言いたい。

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