ボートを速くするために-技術改善をおこないつつ、DPSを高めよ-
自分の漕いでいるボートを少しでも速くしたい。そのために選手達は日々、トレーニングに励んでいます。しかし現代はいろいろな情報が交錯しています。今、何をなすべきか、優先順位はなにか等々で混乱していませんか。ローイングテクニックの改善を中心にこの課題について図を使いながらシンプルに表現することを工夫してみました。
レートと艇速
- 低いレートでは艇速はレートにほぼ比例的に増加する。これは漕手のテクニックもストロークパワーもレートによって乱れたり、低下しない余裕のある領域のため総発揮パワーがレートと比例的に増加した結果、 艇速が延びて行く。
- レースレート付近では体幹主動やブレードワークが序々に理想的に行えなくなる。このために艇速増加はレートに対して頭打ち(飽和)の傾向が生じてくる。当然のこと艇速曲線はクルーの技量が高ければ頭打ちは遅れて現れる。同時に艇速のニ乗的に増加する水からの摩擦抵抗がこの飽和傾向をさらに強める働きをするのでレートに比例して艇速は増加しなくなる。
- さらに無理をしてローイングレートをあげると、テクニックは乱れ、1ストローク当たりのパワーも減少するに至る。このため高いレートにもかかわらず艇速は逆に下がってしまう。
以上のレートと艇速の関係から、そのクルーのレースレートはクルーの艇速曲線が飽和傾向に入る前あたりに設定するのが通常である。レースレートはクルーの技量レベルによって決定されるべきであり、むやみにレートのみを上げて漕いでも効率的ではなく、艇速を得ることはできないことが理解できる。
技術の改善効果
- 高いレートの領域までローイングテクニックを乱さないで漕げるようになれば、艇速曲線は今までより高いレースレートで漕いでも効率よく高い艇速が得られる。
- 先ず低いレートで完全なるローイングテクニックを習得し、徐々にレートを上げてもそのテクニックをキープできるようになることが必要である。低いレー トも高いレートもテクニックの内容は共通である。従って自分の漕ぎに五感を動員しながら技術習得ができる余裕のあるレートで基本的技術を身に付けることが優先されるべきである。ただ注意するべきは低レートのみ漕いでいると知らず知らずのうちに、低いレートしか使えない技術に陥ることがあり得る。このためにいつもレースレートをイメージして行うとか、オフシーズンであっても補助的に少しの時間、ハイレートを漕ぐことも有効となる。
- ハイレートにも通用するローイングテクニックを習得するためには、次のことに留意しながらすべての動作を単純に連続した動きで行うことが大切である。
- 体幹主動による力強く、シンプルなボディワーク
- 艇速加速変化とシンクロした動作
- 正確なタイミングで単純な動きのブレードワーク
- スムーズなファードモーション等で高いレートでの動きをより容易にさせ、同時に艇に無駄な加減速を与えない。
DPSの改善効果
- 1ストロークで艇を進められる距離を増やすことができれば同じストロークレートでも高い艇速が得られる。
- DPS = Distance Per Stroke= 1ストローク当りの漕行距離
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先ず低いストロークレートでいかに1ストロークで遠くまで艇を移動させることができるかを学ぶことからはじめる。しかもレートが上がっても力強く漕ぐことができる漕ぎ方であること。
1ストロークでの仕事量を増加させるためには、ストロークの長さ(m)Xストロークの強さ(N)を大きくすることであることは物理学的基本原則である。しかし、レースレートでも使える漕姿であるという条件を考慮するとなるとレンヂは長過ぎてもいけないし、いくら力強くても短か過ぎるレンヂも有効ではないことは誰もが知っている。また、同じ仕事量であってもどれだけの短時間で発揮(パワー=仕事密度)したかで、瞬時の艇速は決定する。
さらにそれをどれだけ持続できるかという、持久力がレースでは勝負の大きな要となる。(パワーX持続時間=仕事量)これらエネルギー発生の仕組も理解しておくべきである。
- ハイレートになってもDPSを大きくするためには次のことを留意して、強いストローク維持実現への努力が求められる。
- 体幹主動によりその選手が持てる最大の筋力をストロークで発揮できること。
- キャッチからファイナルまでサスペンションを維持して、力の伝達を確実に行う。
- 脚ドライブと正確なタイミングのブレードワークでロスレンヂや蹴り戻しを少なくする。
- 適正なプレード深さによりブレードを固定し、オールの梃子を成立させ水中効率を落とさないようにする。
- スムーズなファードモーションにより艇に無用な加減速を与えて抵抗増大を起こさせない。
まとめ
ボートは物理学的仕事量をより多く発揮した者が、勝利する原則から成り立っている。ここで述べたことは主にローイングテクニックの観点からの記述であることを忘れるべきではない。要するに艇の推進効率=ローイングテクニックに付いてのみの記述なのである。ローイングテクニックにおけるキーワードは Don't stop / Don't rush / keep moving =艇とオールと体のSynchroである。
勝利者になるためにはテクニックと同時にハイレートと2000m競争に耐えうる運動生理学的な体力(筋力、持久力)と強靭な勝利への意志が不可欠であることを確認しておきたい。