ロング漕(ユーティリゼーション)は強く漕げ

先回よりのシリーズもの読み切りです。反論、質問を歓迎します。今回もかなり挑発的にいきます。

ボート競技は“持続的”な“パワー”(=持続時間×力×運動速度)の大きさを競うものである。第一話のなかでも触れたがボート競技はその運動の姿勢・体の使い方において他の水泳、陸上、自転車競技に比べてハンディを負っている。つまり大きなパワーを発揮するという目的に対して基本的に無理な姿勢を強いられている。そして、体とボート(パワーの発揮対象)の結合=インピーダンスマッチングは速度より、力の要素に傾いている。この認識が議論の前提となる。即ち、

これらのボート競技の特徴はローイング運動を単純な連続的全身持久運動として扱うことを不可能にしている。巷にでている運動生理学の教科書からの一般的な情報だけではボートの持久トレーニング処方に間違いを起こす恐れが多い。1.と2.はローイング技術のレベル向上がこの課題解決の鍵をにぎることは読者は既に気付いておられるはずだ。

純粋に技術習得が目的のトレーニングでは低い強度と運動速度において自分の動作を自覚しながら行うことが大切である。これはテクニカルドリルとか低い強度のユーティリゼーションで実施される。しかしこれは技術トレーニングとしてはあくまで補助であり実戦的でないことを指導者は認識するべきである。ドリルはうまいが普通に漕ぐとダメな状態のままで技術向上が止まってしまうことがある。

「持久ロング漕(ユーティリゼーショントレーニング)は強く漕ぐべきである」と確信する。

いつも低強度のロング漕のみで漕いでいるため、脚でストレッチャーを強く押しつづけられない。腕、肩を過度に使っている漕姿に気付いていない。水中加速のリズムが無い。等の致命的欠陥のままでいる選手とチームがなんと我国には多いことか。これらの欠陥克服はいつも水中を強く押すことを心がけることに尽きる。客観的に、ほんとうに強く水中を押せているか?いつも自問自答するべきだ。コーチもふくめ、自分達のリズムに酔ってはいけない。この気付きが大切である。

トレーニング強度の調節は水中ではなくレートを下げて調節できる。結果的に平均強度を下げられ持久トレーニングとすることができる。ATをやれとの意味ではない。これで自分の漕ぎに注意を払う余裕も生まれる。反対にレートさえあげれば明日にでもレースは漕げる。私は“サスペンション”の感覚の低い選手に対してはパワーローというメニューをやらせることが多い。例えばエイトではペア単位で20ストローク低いレートで全力で漕がせて廻す。それを3〜5セット繰り返す、という方法だ。もともとこれは乗艇での筋力トレーニングとして行われていたものである。コーチはモーターボートのうえから大声をかけて必死の形相で全力で漕ぐことを選手に求める。 強く、激しく漕がせると効果的である。

一方、筋肉中で起こっていることはストロークにおいては非解糖系の無酸素的エネルギー産生にかなり片寄っていることが予想される。次のリカバリー動作では回復という繰り返しとなる。平均的にみれば有酸素運動という複雑なエネルギー産生のシステムではなかろうか。この辺は素人の私には弱いところだ。

しかし、ここで重要なのはタイプⅡ(白筋)の動員をできるだけ押さえられるようにローイング動作は柔らかく、しなやかに、連続的に、リズミカルに行われることである。

例えば水中が強ければ良いのかということでガツガツとした荒々しい漕ぎは乳酸発生を促し易く、疲労を早めるし、物理学的にも無用な加速度を艇に与えて水との抵抗を増やしてしまうだろう。これらはボートのコーチ達は経験的に知っていることだが3年くらい前のFISAコーチ会議でも旧東独の研究者から発表があったようだ。私の得意な擬音を使って(長嶋監督ではないが・・・)ローイングを表現するとこんな音になる。

ザック!!
  • 素早い戻らないキャッチ
  • 長い音はクイックエントリーでない証拠、短音であること。
(グゥー)
  • 実際は無音
  • 水平に強いストローク
  • 加速感が重要
ザパー
  • 最後まで強く押す
  • 水切れのよいファイナル音
  • ガンというクラッチ音はいけない
ポトポト・コロコロ
  • 水面をすらないでブレードから水滴が落ちる音
  • コントロールされたスライドの音

さらにこのイメージを重ねて言えば、このユーティリゼーショントレーニングでは朝モヤの湖岸に立つ私の右端遠くからこの音が聞こえだし、目前を通り、左端のかなたへ消えてゆく。こんなイメージでいる。

効果的な技術修得のことを付け加えるなら、出艇前にこれから始まるトレーニングにたいして、ひとつ、二つの技術的焦点を決める。コーチはこれを良く説明するべきだ。

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