英国ボート事情(その2)

植田健三

今回はヘンリーレガッタと並ぶもう一つのイベント「オックスフォードVSケンブリッジレース」の紹介です。このレースの起源は1829年にまで遡ります。ケンブリッジ大学のチャールズ・メルヴィルが友達だったオックスフォード大学のチャールズ・ワーズワースとシングルスカルでのレースを実施。第一回はテムズ川上流のヘンリー・オン・テムズで行われました。

このレース、両大学の学生のみならず一般市民にも好評だったので翌年、開催地をウェストミンスター(ビッグベンが在る所)に移して、続けられていましたが、当時、テムズ川は主要な交通路。行き交う船で混雑するため、1845年に現在のコースに変更されました。場所はロンドン西方パットニー橋をスタートにテムズ川を上りチズウィック橋をゴールとする4マイル374ヤード(6800m)のコース。ここは川が最も湾曲している所でベンドと呼ばれる大きなカーブが2箇所もあります(地図参照)。コックスの高度なラダーワークが勝敗を握るのです。もう一つ、ユニークなのはタイド(干満)で1日に上下3mも変化します。このためスタートは夕刻の満潮1時間前とされ、下流から漕ぎ上るというコース設定になっています。

この名誉あるレースは現地ではThe Boat Raceと呼ばれています。通常はレガッタですがこのイベントだけは特別という位置づけのようです。クルー(ブルーと呼ばれる)に選ばれるには、ボートだけでなく学業においても優秀でなければならず国籍も様々。それだけにブルー達の堂々とした態度は、若き紳士のお手本のようなものです。特に今年のケンブリッジクルーは女性のコックスということで話題沸騰。当日はBBCが徳番を組みレースまでの練習やクルーへのインタビューなどが紹介されました。

153回となる今年のレースは4月9日に行われました。対校戦に先立ち、オックスフォード「アイシス」、ケンブリッジ「ゴールディーズ」呼ばれるジュニアクルーによるレースが行われます。そしていよいよ対校戦。スタート地点のパットニー橋付近では異様な緊張感に包まれ、1万人を超える観衆はみな固唾を飲んで審判艇の発艇サインを待ちます。そして「ゴー」サインともに両校クルーが飛び出します。

最初のベンドでインコースを取ったオックスフォード(オ大)が0.5Lリード。1500mを過ぎたあたりから両校が接近し始めました。ブイがないため時としてこのような状態が発生します。両校の平均レートは35〜36。じっと耐えていたケンブリッジ(ケ大)がいいリズムをキープしじわじわと攻め寄ってきました。4500mあたりからケ大がインコースを取る形になり1.5Lリード。6000mを過ぎるといよいよデッドヒート状態となり、両校必死の力漕。オ大は懸命に追い上げましたが最後は1・1/4L差でケ大の優勝となりました。タイムはケ大17分49秒、オ大17分52秒。

半年前からこのレースのために練習してきた両クルーにとって対校戦での勝利は悲願です。6800mもの長いコースであるにもかかわらず、最後までレースから目が放せないのはその闘志の表れです。ロンドンの市民が150年以上、毎年このボートレース楽しみにしているのもそんなところにあるのでしょうか?

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