艇運搬におけるポイント
しばらくこのシリーズはお休みをいただいていました。今回のテーマはボートのトレーニングとは関係のない話です。しかし、ボート漕ぎにとって大切な艇を安全に運搬することは極めて重要なことです。ほとんどの競技団体や選手は自分で運ぶことはなく、業者任せのことが多いと思います。そして運搬に際してのノウハウはまちまちで、間違いと思われることも多々見受けます。瀬田RCで長年艇を運搬してきたなかから艇運搬でのポイントをまとめてみました。ここ一ヶ月間は熊本、戸田、長沼、加古川運搬で総走行距離は6,000kmを越えました。8年前は東名高速道路で痛恨のクラシュ事故も体験しました。これらの体験は必ず参考にしていただるし、瀬田RCだけの情報にしておくのは惜しいと考えここに紹介します。
集中する戸田でのレース開催
我が国では2000mの公式コースが少ないために戸田でのレース開催が多くなる結果となっている。戸田以外の団体にとっては大きな負担(ハンデイ)とリスクを負ってレースに参加しなくてはならない。これはボート競技レベルの地域格差拡大を助長することにもなっているので今年の新人選手権の長良川コース開催のように戸田以外の開催が多くなることを願っている。一方、戸田のチームは艇運搬をしての遠征経験が不足して遠征に弱いチームを作る弊害の恐れもある。私の経験では遠征では約1艇身の差を負うことになる。
艇の準備
運搬前の準備について述べる。
- リガーは外して艇種ごとにまとめて結わえる。特にFRP製の新しい非金属製のリガーは局部集中衝撃に弱いので毛布でくるむべきである。
- 緩めたボルト、ナットは振動で脱落しないように堅く締めておく。シートは外しても良いが混乱逸散を防ぐ意味で艇に専用のゴムバンドで固定する。これらの部品固定にガムテープを使う例が多いが艇に糊剤を付着させたりして綺麗ではない。また、剥がし忘れたテープは1ヶ月も経過するとベタベタと悲惨な状態となる。舵を雑誌でカバーする団体もあるが何の意味もなかろう。舵ロープは運搬中の振動でバタバタとキャンパスを叩くので2カ所程度固定する。
- オールはFRP製なのでブレードより肉厚が薄いシャフトの部分が弱い。昔の木製オールの習慣でブレードのみを保護してシャフトをむき出しで積載するのは危険である。いまのブレードは踏ん付けても割れない。保護がいるとするなら、シャフト、ピポット、ハンドル部分の順である。
- 道路交通法では車の長さを越える長尺物を運搬する場合は出発地点の警察の許可が必要なので事前に届けること。しかし、大問題がある。12mを越える艇(エイト、付フオア)は許可はおりない。このためにFISA(国際ボート連盟)はこれらの艇種については分割艇とする規定を制定したが我が国ではまだ造艇の規格に盛り込まれていない。正確にいえば日本の艇運搬は法を侵し続けている。関係者(日ボ協会)の早急の対応が望まれる。
- どんなに注意しても間違いは起る。艇運搬時の損害保険に加入をすすめる。損保の窓口に行って、相談すれば内容に応じて保険料を設定してくれる。瀬田RCの昔のクラシュ事故の際は保険に加入して無くて大損害と迷惑を関係者に与えた。事故とはそんな時に起こるものだ。法を侵した行為には法の保護が受けられないことを肝によく銘じて事にあたることが肝要。
艇の積み込み
- 艇の荷台への固定は2箇所が良い。3カ所以上ならより、固定できて確実のようだが艇のためには良くない。運搬中では各固定箇所は別々の揺れを起こすから、絶えず艇をねじる力が働く。固定点を増やせば短いスパンで強い応力を艇に与えてしまい、艇の剛性を低下させて寿命を短くする。
- トラックの運転席の屋根に固定するとこの現象はさらに大きくなるので厳禁である。
- 日本製の艇専用トレーラーも台車の剛性の点で感心できかねる。
- また、海外遠征のような長期間艇を架台に固定する場合は架台の平行度が大切となる。FRP構造物の特性として長時間の応力にたいしてはそのようにに変形する性質がある。架台がねじれていると艇までねじれてしまう。これは艇庫のアームについても同じ問題があるが、逆手に取ってねじれた艇を補正するために直したい方向に力を加えて固定することもある。いずれにしても積載架台は可能な限り平行に設定することが大切である。
- 架台への固定は専用のベルトをすすめる。とにかく作業が簡単で確実である。自動車部品販売店にある。安物は薄くて信頼性が低い。また、合成繊維製品なので耐候性(耐紫外線)が低く、屋外に保管する事は長持ちしないので注意を要する。ゴムひもは重ねて縛るごとに艇に加圧力が加算されていき、必要以上に強く縛る結果にもなるし、一度ほどけると一気に外れて危険である。逆にロープでは、少しの緩みが発生しただけで緩みを吸収できなくて固定が運搬中持続できない。
- 十分に注意しても固定が外れて艇を落とすことの恐れも予想して、固定は2重に掛けるとか艇内のステイと架台を結んでおくダブルチェックが大切である。
- 艇尾とトップには赤布を付ける(義務)特に後部は後続車が予想外の突起に気が付かず追突することに注意するためによく分かるように取り付けること。
運搬運転時の注意
- 高速道路より、下道が凹凸が多いから艇にダメージを与える機会が多い。とくに、トラックにとっては荷が軽る過ぎて振動が大きくなる。
- 荷台ができるだけ揺れない運転が望まれる。専用トレーラーは回転半径が小さくていいが艇の先頭は後ろのトレーラーが回転完了までそのまま直進するため前方の電柱に艇をぶつける事故が多い。運転席から艇のトップの位置が分かるように長いひもをぶら下げるのもアイデアでもある。また、高速道路で急ブレーキはジャックナイフ現象(折れ曲がり事故のこと、トレーラーの弱点)を簡単に起すので厳禁である。高速ではブレーキは付いていない車を運転しているつもりで走行する。トラック運転では大型車と同じく、運転席が一番先頭にあることと、乗用車より車軸間隔が長いので前後輪差を念頭に大回りの回転が必要である。
- 荷物の高さの最高は3.8mにしなくては高速道路への進入を拒否されるから艇の高さを勘案して架台を設定しなくてはならない。しかし、この高さでは国道の通行は大丈夫だが、県道等の一般道はこれ以下のところがある。地方への遠征運搬では注意をしないと破損させしまう。
- 今までの経験では事故は出発直後が多い。少しでも異常を感じたら、車をとめて点検をすすべきである。我々では最初のサービスエリアでとまり、再度荷台の状況を点検することにしている。走らないと分からない積み込みの間違いを早期に発見して事故を防止することが目的である。
- この他、車の運転の常識を遵守して安全運行が必要だが可能なら大型車運転の資格者がいるか、その指導があったほうがより望ましい。