エンパ艇は漕ぎ易い?

この夏に長いサラリーマン生活にピリオドを打ちました。今はボートを作るという新しい仕事に慣れるのに一生懸命の毎日です。でもここ10年間位はボートのコーチが仕事であることが半分以上の時間を占めていました。そのためか一般的な脱サラのようにおおきな段差を感じることなく済んでいます。ボート人生を振り返ると反骨と挑戦の心が私に活動のエネルギーを与えてくれ続けました。現役選手時代は大學生と戸田勢ボートに負けたくない!コーチ時代は強いナショナルチームを作って弱い日本の汚名を晴らしてやる!そして今の度は外国艇に負けない艇を作る会社を日本に作ってやる!で行くことにしました。その時々の仕事を頑張っているなかから次々のテーマが自然と浮かびあがってきたのです。この先のテーマが浮かぶのと命が尽きる時がいい勝負になりそうです。

スポーツ現場での道具とか衣類は機能よりもデザインや流行の好みが採用されるかどうかの決め手になることが多い。ボート競技における艇の風評も例外に洩れずその傾向は否めない。さらに機能とカッコ良さが満足されれば高価格であることは選択の大きな障害にはならない。我が国のスポーツ愛好者は流行で選ぶ傾向が顕著といえる。総てが完璧かつ、最上級でみんなと同じでないといけないという国民性がもたらすものだろう。測定データからでは必ずしもエンパは最上級では無いのに何がなんでもエンパ艇を漕ぎたい!

結果、日本はエンパをはじめ外国艇で埋まってしまった。選手と艇と価格のトータルのバランス(マッチング)を冷静に考えれば浪費とも思える。かたや日本の造艇メーカも無策のひとことに尽きる。規格艇販売に安住して現場の要求が見えなくなってしまった。そしてライバルは海外造船所であることにも気付くことなく国内での競争のみに明け暮れた。結果が外国艇信仰、日本艇不信の現状を招いてしまったたと言えるかもしれない。

漕ぐ者にとって日本艇と海外製艇との違和感は主に艇の硬さ(剛性)と重量にある。現在はかなり良いところまで改善されてはいるが未だ現場の信頼を回復するには至っていない。規格艇という艇型も日本のオリジナリテイに拘わりすぎた結果、違和感を増長させている原因のひとつであり世界の主流とは距離がある。

艇の構造

漕手にとって艇の違和感の主因である剛性と重量について述べる。艇体の剛性はハルの厚みで決まる。そして船底のキールとシートレールが乗っているデッキ又は両舷のガンネルとがかこむ三角形の断面積の大きさ、この二つが決定因子となる。ハルを厚くすればするほど比例的に重くなるので対策としてハルの中心部に軽量のスペーサーをサンドイッチ状に挟むことが考え出された。これが蜂の巣状の材料で紙で出来ているのためペーパハニカムと呼ばれている。軽量と強度が要求される航空機製造技術からの転用であるが、航空機ではアルミ製ハニカムが使われている。同じ目的で発泡軽量プラスチックシートもスペーサとして使われる。コアーマットと呼ばれてる。独立発泡(スポンジのように穴が連がっていない)なので艇破損時に浸水しない利点があるがハニカムに比べると軽量化でやや不利と言われてる。

もう一方の艇断面積を大きくすることはリギング上の制約が有るので選択の幅は少ない。実際に漕ぐ時はこの艇の剛性とアウトリガーの剛性が加算されたものを漕手が感じるためリガー剛性を除いて艇の剛性のみを論じることは意味がない。さらに強いていえばオールの硬さもこれらに加わって漕手に総合的な剛性感として伝わる事となる。弾性体がたわむ時にはエネルギーを吸収し、元に戻る時にエネルギーを放出する。(ゴムひもやスプリングコイルと同じ理屈)一見は損得がないように思えるが柔らかい艇が元に戻る時にエネルギーを放出したとしても艇速には変換出来なく無駄にすてられる。また、漕手の生体にたいしても何ら還元されることはない。つまり、柔らかい艇ほど損失が大きいという理屈が成り立つ。ただ、オールはキャッチでたわんでファイナルで戻るときに漕ぎ易さを助けてくれるのは選手がすでに知ってのとおりである。先ず、艇の幅方向の剛性の影響について説明する。

リギングへの剛性の影響

以上の幅方向の艇剛性とオールからの力の関係は強く漕ぐ程、また艇が柔らかいほどブレードを終始切れ込ませることとなり、艇のソフト感を増長させる。前述のエネルギー損失を無視するなら対策としてブレードに多めのカバー角度を付与するのは効果がある。しかし、艇剛性が低い事によるブレードの切れ込み現象はストローク角全域で一様でない。いくつかの正弦波の合成曲線で変化していくのでオーロックの角度付与だけでは完全補正は期待出来ないことになる。また、バックステーはオーロックピンが後傾するのを防止するためリガー剛性向上の効果は大きい。なぜ、規格スカル艇にバックステイがないのかわからない?

この他に、艇の剛性を表す指標としては艇軸の方向がある。垂直方向は漕手の体重荷重や波からの応力からの剛性を示し、水平方向は漕ぐ力からのねじれ剛性を示す。当然の事ながらスカル種目よりスイープ種目の方が艇にかかる応力は大きくなり艇体製作でより硬く作る対応を求められる。これらの剛性テストの具体的な方法は専門的になるので私の新しい会社が近々に開く予定のHPの中で紹介したい。

艇重量は硬く作るために当然材料の量が増加して艇重量が増す。軽量で強度の高い(高価)な材料と構造の工夫が相まって高剛性、軽量化艇が実現する。。艇重増加は艇を沈める。慣性重量が増えて艇速パターンが改善されるとか、艇が長持ちするとの意見は合理性に欠ける。艇重量増加は水との抵抗を増すのみでしかない。

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